六代目彌市さんへインタビュー

新しいことをしない新しさ。
この時代を生き抜くための文化の拠点へ

 三浦彌市商店を始めた想い

岡崎市に佇む老舗三浦太鼓店では若き職人が集まる。
慶応元年創業の三浦太鼓店では和太鼓だけでなくオリジナルにカスタム出来るデザイン性に富んだ担ぎ桶太鼓なども手掛け、伝統の音を継承した本物の音を守り続ける人気の和太鼓店です。2021年にはこれまでの「モノ」としての太鼓販売の枠を越え、あらたに体験(コト)も販売しようとオンラインショップ「三浦彌市商店」を開業。なぜ?あらたな挑戦をしようと思ったのか?

こうした活動の一つ一つは、あらかじめ計画されていたものではないのだそう。「今の時代を生き抜く知恵を多くの人たちと育んでいきたい」と語る。わたくし伊藤が六代目彌市さんへお話を伺いました。




熱い想いを語る六代目

 

ーーー彌市商店(オンラインショップ)を始めた経緯


伊藤:今回は三浦彌市商店について取り上げたいと思っています。まずはこちらのECサイトをはじめた経緯から教えてください。


六代目:それは遡ること三代目の時代になりますが、昭和初期の頃の三浦太鼓店は「八幡町」という場所にお店があって、この「八幡町」のお店の前には岡崎の三大朝市とも称される「二七市(ふないち)」という朝市が開かれていたんです。

朝市が開かれる日には、三浦太鼓店の店先にもたくさんの人通りがあり、
この人たちに向けて売れるモノを売ろうと。当時、この朝市に合わせて三浦太鼓店では「乾物」仕入れて売ったりしてたそうなんです。

だから、屋号を「三浦太鼓店」ではなく「三浦彌市商店」にして太鼓以外のモノを売っているお店として看板をかかげていたんですよ。



そこから自分の代になって、「音作り」という伝統を軸にしていくのはもちろん。それ以上に太鼓を作るという伝統の中に、日本の大切な「文化」を感じたんです。

技術、知恵、伝統に触れ「日本文化」の素晴らしさを改めて再認識しました。

太鼓屋として太鼓だけを売るのではなく、自分たちが気づいたものを
多くの人に触れていただくきっかけが作れないか、、、


そう思い、太鼓以外の文化を発信していきたいと思うようになったんですよ。それが彌市商店をはじめたきっかけですね。


伊藤:なるほど、三代目の時代に使われていた屋号が「三浦彌市商店」だったんですね。


六代目:そうなんです。今も同じように太鼓がなかなか売れない状況ではありますが、今は太鼓を主な生業にしている中で、自分たちが培った伝統や文化の素晴らしさを彌市商店という枠組みの中で世の中に発信できたらなと思っています。


ーーー彌市商店で大切にしていること

 


伊藤:三代目の時から屋号を引き継ぎ、時代に合った形でお客様と向き合ってるんですね。彌市商店では何を大切にしているんでしょうか。


六代目:しめ縄づくりや漬物講座、田植えもやっていきたいし...
日本の文化を感じてもらえるお店にしていきたいなって思っています。

具体的なキーワードは文化かな。

 

伊藤:これから挑戦してみようと思っていることはありますか。

六代目:繰り返しになりますが、文化の発信を中心にして挑戦していきたいですね。日本人が昔から大切にしてきた四季を感じながら育めるような体験が出来る取り組みを行っていきたいです。


伊藤:お話の中で日本の四季について何回か登場していますが、季節にこだわる理由はなにかあるんでしょうか。


六代目:日本に元々ある物。古くからある四季や農耕の文化。そういったものに祭りや太鼓の文化が根付いています。僕たち現代を生きる人は西洋など「他所にあるものが良いとされている世の中に育った」から、本来の日本の良さに気づけなくなっていると思うんですよ。

常にここにある物を大事にする。なにも特別なことではなくて、ここにある物を再確認・再認識して今を生きる人たちと共有・共感していけたら良いなと思っています。

 

  

ワークショップの様子



伊藤:伝統の工芸品だと外国の方にスポットを当てて販売をされる所もあると思います。三浦さんは海外の人をターゲットに考えていたりはしないんですか。


六代目:ビジネスとしては海外をターゲットにするとは言われるけど、自分にはピンと来てない部分があって...今は海外の人向けは考えていません。欲が出たら海外って言うかもしれないけど。笑


ーーースタッフとの関わりとこれから


伊藤:では三浦太鼓店さんの内側にスポットを向けてお話を伺いたいと思います。これから彌市商店という屋号を掲げて発信をしていくにあたって、スタッフの人とはどのように共有しているんでしょうか。

六代目:思想としては自分たちができることを通じて、今の時代を生きる人たちと「豊かな文化」の拠点を作っていきたい...って考えています。


四季だったり、ここにある物を大事にする...っていう大枠は「想い」伝えられるけど、じゃあそれは何?と聞かれた時、具体的な取り組みは私が伝えるだけじゃなくて、みんなの知恵やアイデアを出し合いながら共創していきたい。っていうスタンスですね。


伊藤:スタッフを含めて、今を生きている人たちと共に新しい文化を作り上げていくんですね。彌市商店を今後どのように発展させていこうと考えていらっしゃるのか?益々気になります!


六代目:実は自分自身3年後や5年後を考えるのが苦手で...笑
今この瞬間、自分たちが楽しめてワクワクできて、力が注げそうなことに全力でとにかくやってみる!常にそのスタンスです。笑


伊藤:なるほど!未来を考えるのではなく過去を大切にしながら今を全力で取り組むという動きをされているんですね。


六代目:そうですね。着実に自分たちが信じたもの、大事にしたいなと思うことを大切にしていってその結果、広まっていったら嬉しいし、
もしかしたら、彌市商店が太鼓屋じゃなくて農家になってました。みたいな。笑 そんなことも、本当にあるかもしれない(笑)



伊藤:「過去」を大切にしながら、そこからつながる「今という瞬間」を大切にして進んでいくということですね。

六代目:スタンスはほんとにそれだね。



ーーーお客様との関わり


伊藤:では今度は、少し外側に焦点を向けて伺っていきたいと思います。

彌市商店とお客様とは今後どういった繋がりを作っていきたいと考えているんでしょうか。

 

六代目:それは、お客様と言う枠を超えた関係性を築いていきたいと思っていて...商売になると対お客様という関係に当然なってしまうけれど、彌市商店ではスタッフも含めてお客様とも共に豊かな時代を創造していこうと思いで描いています。なので共に彌市商店を作っていく「同志」みたいなイメージを持っていますね。


自分たちが販売するイベントや体験、サービスも一緒になって考えたいと思っていて...


話を戻すと、三代目が乾物を売ったっていうことの大きな視点には
時代を生き抜く「知恵」が根底にあると思っていて。

それを今の時代に自分も作ってみたいと考えているんですよ。誰が作るかって考えた時に、やっぱり自分一人が作るんじゃなくて

今生きる人たちと一緒になって創り上げたい。


その時代を生き抜く知恵を育む文化の拠点が彌市商店だったらいいなってすごく思ってます。

 

ーーー先人から受け取ったバトンを繋げるために


伊藤:これまでのお話を聞いていて、後付けでいろんなことに挑戦されているのではなくて、「音作り」という伝統を守るためにという思いから行動した先に、新しい気づきや挑戦があった、というのがとても面白いですね。


六代目:そうですね。常にそこを軸にして今できることを一生懸命やることで結果として未来に繋がっていくと思っています。僕は過去の人たちからそのバトンを受け取った以上、繋げていきたいという思いが強くあります。不思議なことに、そんなご縁がどんどん私のところには集まってくるんです。だからこそ自分は次へ渡す役目なんだと、、、



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後記 (伊藤・記)

「今の時代を生き抜く知恵を多くの人たちと育んでいきたい」

そんな話を聞いて、今回インタビューをさせていただいた。

お話を伺う中で、特に印象的だったのが「数年後の不確かなビジョンに基づいて判断をするのではなく、今に焦点を当ててこの瞬間自分たちが楽しみながら取り組めることを見極め行動されている」ということだった。それには1つの軸である「伝統の音を守り、繋ぐためには」という思いがすべての行動基準となっているからと六代目は教えてくれた。


1つの軸が通っているからこそ、先人たちの知恵から学び今を生きる知恵を考えながら挑戦を続けている。これからを繋ぐ若い職人や地域の方、お客様も含めて本物の音を継承するため、
そして今を生き抜く知恵を模索しながら新たな文化の発信拠点となるよう
今日も本物の音が響き渡る工房で奮闘している。